この質問は、初心者向けの質問サイトに繰り返して登場する質問ですが、
はっきりいってこれは愚問です。
質問者にはそもそも「需要」の意味が分かっておらず、
自分と「需要」なるものとの関係が把握できていません。
おそらくですが、漠然と仕事が沢山あるのであれば、
自分もおこぼれにあずかろうとか考えているのでしょうが、
世の中そんなに甘くありません。
大事なことは、まず自分が何を聞いているのか、
自分が認識している「需要」とは何なのか。
分からないことを分からない状態で放置しないで、
「ブレークダウン」するクセをつけましょう。
「ブレークダウン」すれば、自力で答えにたどり着くことができます。
こうして身につけた自己解決能力こそがプロの必須スキルの一つです。
翻訳者の需要と供給
自然界における需要と供給には「偏り」が存在します。
パレートの原則(80対20の原則)と言われることも多いのですが、
これを翻訳業界に当てはめてみると、翻訳案件(実ジョブ)は
「一部の優秀な翻訳者」に集中するということになります。
低い翻訳レートで仕事を引き受けてくれる翻訳者を使えば
確かにコストダウンになりますが、だからといって、
訳質レベルの低い翻訳者に仕事を回そうという翻訳会社はほとんどありません。
そのまま納品したら、納品物へのクレームを受けるだけでなく、
それまで続いてきたクライアントとの契約そのものを失う危険があるからです。
事実、ある翻訳会社が有名なクライアントから切られて、
別の翻訳会社にそのまま翻訳メモリが移管されるプロセスを
経験したことがあります。
翻訳メモリの中身を見せてもらいましたが、
それはそれが酷いものでした。
ただ、いくら優秀な翻訳者であってもその処理量には限界がありますから、
繁忙期にはレギュラー陣だけではマンパワーが足りず、
受注した仕事を回すことができなくなります。
会社としてはいったん勝ち取った契約を失いたくはありませんから、
翻訳会社は一定のマージンを差し引いたレートで、
別の翻訳会社に仕事を回したり、あるいは、通常は使わない
(使いたくない)翻訳者に仕事を回したりします。
ただし、後者の場合は、チェッカーによるフィルターを強化するなりして
品質維持に余分な手間をかけることが前提となります。
優秀なチェッカーをストッパーとして投入すれば、
それなりのコストが上乗せされますから、
全体コストを予算内に収めるために翻訳者のレートは低くなります。
つまり、需要がいくらあってもあなたのレベルが低ければ関係がない
ということです。
相手にとって上位ランクの翻訳者でなければ、
そもそも仕事は回って来ないか、
回ってきても優秀なチェッカーの後ろ盾が必要なために、
翻訳レートはかなり低めに設定されるかのいずれかでしょう。
需要があるから自分に沢山仕事が来る、
だから自分は翻訳者として稼げる、という単純な流れで
安易な期待をしてはならないということです。
自分のレベルを知る重要性
このように、需要とは供給とのバランスで決まることが分かれば、
自分のレベルを知り、必要ならレベルを上げる努力が必要であることは
おわかりいただけると思います。
沢山の応募書類をいろんな翻訳会社に送ったのに、
トライアルそのものが送られて来ないというのは論外だとして、
トライアルに合格し翻訳会社に登録された後、
何ヶ月も仕事が来ないということであれば、
登録時の評価が低いために繁忙期にやむを得ず使うことを
想定して登録された予備軍(プロスポーツの世界でいえば2軍)
での登録だと気づくべきです。
そのような予備軍の登録翻訳者にとっては、
需要があるとかないとかは関係ありません。
需要があろうがなかろうがそういう翻訳者には
そもそも仕事は回ってこないのですから。
回ってきても、例外的なケースですから稼働率は著しく低く、
とてもプロとして食べていける年収には達しません。
自分のレベルが十分でないと思ったら、
需要云々を考えるより先に、翻訳力を向上させる地道な努力に
注意を向けるべきです。
実態に即した守備範囲の確立
専門分野が明確な人にありがちな話ですが、
自分の専門分野はXXXだからXXXの仕事だけ送ってください
という人がいます。
これでは、コーディネータは困ってしまいます。
特許はハイブリッドな案件がほとんどなので、
化学と思って送った案件が機械寄りだったということもあり得ます。
このような場合、その案件を打診された翻訳者が
「案件ミスマッチ」としてクレームしてしまうと、その後、
コーディネータはその翻訳者に案件の打診がしづらくなり、
その結果、その翻訳者は仕事を受注するチャンスを失うことになります。
例えば、化学系の案件であっても、ばりばり合成系もあれば、
分析装置に絡むメカ中心の案件もあるし、反応速度論などの
数学系の案件もあります。
化学系で応募したのなら、専門領域をより広く捉えて守備範囲を
広げる努力をすべきです。
過去の研究テーマや自分が出願した特許にこだわる翻訳者は、
いくら理系で専門知識があったとしてもただの使いにくい人
プライドだけ高い面倒な人として認定されてしまいます。
特許翻訳を仕事にする以上、
自分から仕事の実態に歩み寄る努力をすべきです。
逆に、文系ならば、化学か機械か電気かと言ったおおざっぱな括りで
捉えるのではなく、特許明細書を出発点として学習を進め、
現場の実態に即した守備範囲の確立を急ぐべきです。
でなければ、自分の専門領域にこだわる理系と同様、
使えない翻訳者認定されてオシマイです。
どんな特許があるのか、自分はどの分野に対応できるのか、
どういう特許なら興味を持って勉強が継続できるのか、
本当にそれは自分がやりたい仕事なのか、等々、
そもそも特許翻訳者になりたいと思った気持ち(出発点)に遡って
自分を見つめ直すことです。
まとめ
自分のレベルが十分でない時点で、
一般論として、需要(仕事)があるとかないとかを議論することは
無意味であることはおわかり頂けたかと思います。
議論する以前に、検討すべき項目がいくつもあるのです。
まずは、足元を見て、地道な努力を続けていきましょう。
優秀な翻訳者には常に仕事が打診され、
仕事に追いまくられる状況があるのですから、
仕事が選べる翻訳者になることがまずは先決です。
<追伸>
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