特許翻訳者になったら、「稼働率維持」が問題になります。
気が向いたときだけ仕事をします、みたいなライフスタイルは
翻訳フリーランスには許されていません。
会社員が副業でやるなら、うまくはまるケースもあると思いますが、
それはそれで条件がかみ合うことは少ないです。
高給サラリーマンなら、副業の仕事が来たり来なかったりでも平気でしょうが
それでは、わざわざ副業で特許翻訳をやっている意味がありません。
では、高稼働率を維持するためには何が必要でしょうか。
結論から言うと、守備範囲の広さです。
幅広い専門分野に対応できる力が必要となります。
今回は、ある分野から他分野へと守備範囲を拡げる際に役立つ
「アナロジー思考」についてご紹介したいと思います。
目次
特許翻訳者が守備範囲を広げるべき理由
仕事を割り振る翻訳会社も、社員に給料を支払う等
固定費を捻出するためには稼働率を上げる必要があります。
となると、会社としては仕事を選んではいられないというのが本音でしょう。
ですから、いろんな分野に対応できる
(処理速度と品質という条件クリアが前提)レギュラー陣がいれば、
そのメンバーを中心に事務所の仕事を回そうとするのは自然の流れです。
ここで問題となるのは「理系の翻訳者」です。
彼らの中には、自分の専門分野に強いこだわりを持つ人がいて、
「XXXしかやりません。」と言ったりしますが、
はっきり言って「困ったチャン」です。
なぜなら、割り振る仕事の専門分野を限定されてしまうと
コーディネータとしては仕事がやりにくいからです。
結果、徐々に疎遠になり、最悪、その登録翻訳者はフェードアウト
(切られるというやつですね)してしまいます。
そこまでいかなくても、翻訳対象の専門分野を限定してしまうと、
その分野の仕事が運良く回ってきたときに、
今度は自分自身のスケジュール調整が難しくなり、
他の翻訳者に仕事が流れてしまうリスクがあります。
この時、副業だったらまだしも、専業でこのようなスタイルを貫くと
稼働率が上がらないまますなわち年収が上がらないままとなり、
自分の首を絞めてしまうことにもなりかねません。
プロとして安定稼働する、希望の年収レベルを維持するためには、
たとえ専門を持つ理系であってもその専門分野に固執することは
避けなければなりません。
まして、文系であるならなおさら。幅広く仕事を獲得できるように
スキルアップを継続し備えておく必要があります。
専門分野を持たないということは、
本人がより積極的に幅広い得意分野を打ち出さない限り、
理系に比べて不利な扱いを受ける可能性があるからです。
同じように得意分野として打ち出しているのなら
文系のXXさんに御願いしようと思われるぐらいのブランディング
(相手に対する認知)が必要です。
では、具体的にどのようにすればいいでしょうか。
ここでは、ある分野から他分野へと守備範囲を拡げる際に役立つ
「アナロジー思考」について、具体例を挙げながら
説明していきたいと思います。
化学はできるけど、機械は苦手。
バイオは得意だけど、化学はダメ。
こういう方は是非、日頃の勉強にこの思考力アップのための
トレーニングを取り入れてみて下さい。
具体例(分離技術)
ここでは分離技術を取り上げてみます。
化学の世界では、様々な成分が含まれる混合物を
分離する技術が必要となります。
どんな成分があるかを確認するための「定性」分析と、
各成分がどのぐらいの割合で含まれるかを確認するための「定量」分析があり
そのために用いられる技術の一つに「クロマトグラフィー」というものがあります。
この言葉に遭遇した知識ゼロの文系翻訳者が
どのようにアプローチするかという仮定で話を進めていきます。
キーワード候補を探す
キーワード候補を探すための
サジェストツール(http://kouho.jp/)を使いましょう。
Google検索で、「クロマト」と入れると候補リストが入手できます。
ある装置の「仕組み」や「原理」が分からないと
その先の話が理解できませんから、得られたサジェストの結果から
「原理」「種類」「基礎」「意味」などを中心に検索をします。
その際に、その装置を主力製品の一つとして販売している企業名と
組み合わせるのも一つのテクニックですし、
表題部分にキーワードが入っているものを検索したり、
ファイルタイプをpdfに指定したりするのも有効です。
どのような検索オプションがどの程度有効かは経験から学ぶ必要があります。
ここでは、「allintitle:クロマト 原理」を使ってみます。
この検索式「allintitle:」は、
「クロマト」「原理」の両方がタイトル部分に入っているページを
検索するためのものです。
なお、検索式については、まとめたページがネット上に
多数がありますので調べてみてください。
また、クロマトにはいくつか種類があるのですが、
そこから入ると確認する知識が増えてしまいますので、
新しい概念に遭遇した場合は、
今回のように「原理」から入るのがコツです。
大枠から入り、細部に進むという順番です。
概念(原理)の把握
検索結果のページが表示されたら、「画像」に切り替えます。
画像の中からできるだけシンプルなもの(簡略化されていそうなもの)
を表示させてみます。
【図1】
【図2】
【図3】
上記の3つの図を見てみると、
どうも最初は同じスタートラインにある複数の異なる「成分」
(色や大きさが異なる粒子のようなもの)が一斉にスタートして
競争したとき、進む速度が違うため差がついているように見えます。
ただ、同じ場所(経路)を移動する「成分」に生じる
移動速度(移動距離)の差が、「成分」が自分で走って生じた
とは考えられません。人間のように走るわけではありませんから。
アナロジーの活用
砂利が河川で運ばれる場合のように、
重い成分ほどゆっくりと運ばれると仮定すると、
成分の重さ(質量)に着目した分離しかできないことになりそうです。
上記の各図の説明を読むと分かるのですが、
「流れる成分」と「その周りにあるモノ」との「相互作用」が
進行速度を決めています。
「相互作用」というと難しそうですが、
あなたがマーケットで買い物をする場合、
興味のある商品が並んでいるお店の前にくれば立ち止まるし、
買うつもりなら品定めのためにさらに長時間足を止めるはずです。
これが「相互作用」です。
あなたの嗜好とお店の商品との間にある「相互作用」です。
成分についてこの相互作業を考える際には、
その成分の何に着目し、その成分の相手に何を配置するか(組み合わせるか)
がポイントになりそうです。
もし、成分の大きさに着目するのであれば、
相手は小さな孔を無数に有するものにすれば、
小さい成分はその孔に入り込むのに対し、大きい成分はそのまま素通りです。
これで進行速度(同時に移動距離)に差を付けることができます。
もし、電気のプラス(+)とマイナス(-)のような関係があれば、
両者が引きつけ合ってなかなか前に進まない(進めない)ことになります。
こうして、移動速度に差が生まれることになります。
この相互作用の違いが幾つかあって、
それらの組み合わせ(ペアリング)が、
クロマトの種類に対応しているのではないかと推測できます。
そこで「allintitle:クロマト 種類」で検索すると、
クロマトグラフィーの種類と分類(https://www.lasoft.co.jp/chromdoc/chrom.asp?sub=chromat4)
がヒットします。
もし、実ジョブでここまでの準備作業をしているとすれば、
ここでやっと、実ジョブとしてやっているクロマト(グラフィー)が
どのタイプに該当するのかの確認作業に入れます。
専門用語への変換
「種類と分類」についての上記ページにある表を解読するためには、
「相」の概念と「気体」「液体」「固体」の種別、
「移動相」「固定相」の違いについての理解と、
それらの組み合わせによりどのような「相互作用」が期待(利用)できるか
という分類の視点が必要です。
逆に言えば、これらの知識確認が済んでいるのであれば、
クロマトは自分の得意分野にできるレベルまで来ていると言えます。
原理から入り、アナロジーを使って身近なものにたとえて、
そこで使った概念を専門領域のキーワードに転換する力さえあれば、
後は高校レベルの知識補充・確認をすれば、特許翻訳者としては
十分通用します。
いきなり難しいと決めつけないで、たとえてみる(アナロジー思考)
そして図解(概念化、可視化)してみるというクセをつけましょう。
後は、類似の特許を数多く読むだけです。
専門知識の補充
誤解のないように付け加えておきますが、
当業者が常識的に有する知識確認は怠りなく行って下さい。
ここでは、「相互作用」がそれに該当します。
特許明細書の原稿を執筆する人・作成する人・読む人は「当業者」です。
わかりきったことについては説明してくれません。
例えば、「化学 相互作用」で検索した際にヒットするページ
(http://kusuri-jouhou.com/sayou/sougosayou.html)から、
相互作用には何種類かあることが分かります。
・ 共有結合
・ イオン結合
・ 双極子-双極子相互作用
・ 水素結合
・ ファンデルワールス力
・ 疎水性相互作用
あとは、これらの語句を個別に検索したり、
他のサイトも見てクロスチェックして正確性を担保したり、
定評のある化学事典で確認するなどして、知識補強をします。
文系の中は、理系ならどんな技術的な内容でも理解しているはず
と思っている人もいるようですが、クロマトに使われている
相互作用について体系的に説明できる人(本を見ないで)は、
化学を専門にしている人であっても少数派です。
理系には、どうせ勝てない、どうせ無理、どうせ難しすぎる、
といった先入観は、理系を過度に利するだけですから、やめてください。
短期間の独学でプロになれる人
文系で専門知識ゼロなのに、数ヶ月の集中的学習で
プロの特許翻訳者になってしまう人がいます。
少数ですが、確かに存在します。
多くはこのアナロジー思考を身につけています。
本人が意識的に使っているのか、無意識的に使っているのかは不明ですが、
この力が備わっていなければ、短期間で限定的な知識を起点にして
広範囲の専門的な文書を読み解くための手がかりを入手することはできません。
そして、この限定的知識からの展開力こそ、再現性のあるスキルであり、
一度身につけることができれば、長年にわたって活用できる
「一生モノのスキル」ということになります。
アイデアの借用や組み合わせができる等の思考力があってこそ、
知識量に依存することなく、新しい分野の特許を読み解くことができるのです。
まとめ
アナロジー思考は、未知を知に変える力、
発想そのものを生み出す力です。
これがマスターできれば、あとは高校レベルの基礎知識を押さえ、
数多くの特許明細書を読み込んで可視化し、まとめるという努力を
積み重ねることで、特許翻訳は独学でマスターできるはずです。
逆に、ここが理解できていないと
「理系の大学に進んでやり直さないとダメなんだ。」
という発想に行き着くことになります。
これでは特許翻訳のプロになって稼ぐという目的から見て
大きく遠回りしてしまいます。
わたしが主催している特許翻訳講座は、
この発想を1年以内に身につけ実践し、
プロの特許翻訳者になるまでの期間を短縮するための
「加速装置」に過ぎません。
当たり前のことを当たり前にやっているに過ぎないのです。
<追記>
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