特許翻訳者のためのジャーナル活用術

特許翻訳者を目指して特許翻訳の勉強をしている人だけでなく、
すでに特許翻訳者になっている人の中にも、
特許に書いてあることが最先端だ」と思っている人が
少なからずいらっしゃいますが、コレは間違いです。

 

最先端技術情報は、実は特許ではありません。

 

また、特許を読む上でキモとなる「背景知識」は、
特許だけを読んでいたのでは身につきません。

 

この記事では、その辺りの誤解を解くと同時に、
特許翻訳者になるための学習に、
ジャーナルを取り入れる有効性についても
詳しくお話していきたいと思います。

 

 

 

特許翻訳者の誤解(研究者が目指すもの)

 

皆さんは、企業の研究者が日々何をモチベにして頑張っているとお考えでしょうか。

 

上司の評価?ボーナスの査定?それとも人間関係?会社員ですからね。
もちろんそれもあるでしょう。

 

けれど、研究者になったからには、「研究者としての評価」を上げることを
一番に考えるはずです。では、「研究者の評価」は特許出願の数でしょうか?
会社にとってお金を生み出すエース級特許でしょうか?それも否定はしません。

 

けれども、研究者としての評価は、やはり、自分が執筆者として
名前が出ている論文が一流の雑誌(ジャーナル)に掲載され、
それが世界中の一流の学者の論文に引用されることだと思います。

 

学会に参加したときに、「君の論文読んだよ。凄いね。
うちの研究室でもすごい話題になっているよ。」

 

 

Image of a business team with its leader being at the conference on the foreground

 

 

なんて言われたら舞い上がってしまいます。
研究者というのはそういう生き物なのです。

 

 

もちろん、論文を出すだけではダメです。
論文の数だけでなく、個々の論文の質(インパクトファクター)
被引用数などで評価される研究者のいわば「戦闘力」
(ドラコンボールで登場するスカウターに表示される数値)
が大きければ大きい程、研究者の評価も急上昇し、
当然、研究者本人の満足度もアップするはずです。

 

逆に、この戦闘力がゴミレベルなら、
いくら職場の上司に評価されていても、論文がゴミ認定されれば
研究者仲間からは、当然、研究者の頭脳レベルは
「ゴミ」認定されてしまいますよね。

 

ここで大切なのは、研究者自らの第一義的評価基準が
「特許」ではないということです。

 

 

企業が、職務発明規定により「金一封」というインセンティブ(※)
を与えている場合であっても、その金額はせいぜいボーナスが
幾分増えたかなという程度です。

 

多くの研究者は、特許の対価に期待して研究しているわけではなく、
研究者として一流の認定を受けたいのです。

 

ですから「俺の特許で会社が100億円儲かったから半分の50億よこせ。」
などど言ったら、日本の村社会ではそれこそ「鼻つまみ者」です。

 

会社はその特許を生み出すために、研究所を建設し、
高学歴社員を大量に採用し、実験装置に大金をはたいて研究活動を
支援しているのです。

 

 

Flu virus experiment -  scientist in laboratory with microscope, wear protective eyewear

 

 

会社には利益を、従業員(研究者)には名誉を」です。
研究者に渡される最高の報酬はお金ではありません。
名誉なのです。

 

※報奨金の相場については、「職務発明対価請求ナビ」等を参照してください。

 

 

であるとするなら、ライバル企業(大学、各種研究機関を含む)で
同じ分野の研究をしている研究者からの高い評価を得るため、
誰よりもすばらしい論文を誰よりも多く、
メジャーなジャーナルに発表したいと思うはずです。

 

そして、このことがときどき「勇み足」となり、
特許出願できない事態(※)を招くことになります。

 

もし、研究者の心が、特許出願に向かっているとすれば、
そもそもこのような事態は起こりえない得ないはずです。
まず、研究者の頭の中が「論文発表ありき」だからこのような問題が起きるのです。

 

※「学会発表する場合に、特許関係で気をつけること
(名古屋大学、学術研究・産学官連携推進本部)を参照のこと。
併せて、特許法第29条1項の新規性についての特許庁の資料を参照願います。

 

 

 

ジャーナルに旬の情報が掲載されるワケ

 

ジャーナルの種類にもよりますが、
投稿から掲載されるまでの日数は概ね数十日です。
少なくとも、数ヶ月以上かかることはありません。

 

ちなみに、「Applied Physics Express(APEX)」2008年1月創刊号によれば、
「JJAP Express Lettersは、投稿からオンライン版掲載まで
平均35日という迅速な出版プロセスを持っています(最短15日)。

 

この特徴は、新編集体制を導入して、APEXでもさらに充実して行きます。」
となっています。研究者は、このスピード感の中で争っています。

 

もし、あなたが得意分野の最新情報に精通したいのなら、
ジャーナルをフォロー(定期購読)すべきです。

 

ちなみに、わたしの主催している講座では、
Journal of Electrochemical Society」及び
Journal of Vacuum Science & Technology A, Journal of Vacuum Science & Technology B」の購読をすすめています。

 

加えて、ジャーナルには、査読(Peer Review)プロセス(※)が
組み込まれているため、内容・文体などの点において
特許明細書を上回るクオリティが担保されています。

 

 

特許明細書を活用して特許翻訳を勉強している人は、
「特許には間違いが多い」と文句を言いますが、
書いている人のレベルも査読のプロセスの有無も、
そして何より執筆者の意気込みがジャーナルと特許では違います。

 

質の高い情報を求めるなら、一流ジャーナルを定期購読すべきです。

 

加えて、複数の学会に参加、研究者が参加する
ショウ・コンベンションの類もフォローすべきです
特許のネタは特許翻訳業界の外にあるのですから。

 

※「査読」については、例えば、
査読(Peer Review)とは何か?」を参照願います。

 

 

 

特許の鮮度

 

では、ジャーナルの鮮度に比べて特許のそれはどの程度なのでしょうか?

 

この点については、特許庁のサイトに公開されています。
そこには、「公開特許公報については、出願日から18月(1年6月)
とあります。

 

 

そもそも特許法の目的は、特許法1条に記載されているように
「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、
もつて産業の発達に寄与すること」です。

 

特許制度というのは、世の中にとって「有用な」技術を、
特許という形で一般に公開してもらう見返りとして、
公開した者に特許権という独占権を与えるものです。

 

この1年半という非公開期間が長くなれば、
公開した者にとっては先行者利益が増大し有利ですが、反面、
ライバル企業からみれば似た発明(場合により同一発明)に重複して
投資するリスクが増大してしまいます。

 

結果、産業界のリソースを無駄食いすることになります。

 

この期間設定は、秘密にしたい側の利益と公開して欲しい側との
バランス(利益考量)から決定されたものと考えることができます。

 

なので、あなたが最先端情報だと思って見ていた特許は、
1年半以上前のものであることになります。

 

 

研究者が研究テーマを選定するときに、
特許だけを決定材料にすることはありません。

 

なぜかというと、情報が古いからです。

 

関係者が見ているジャーナルを普段から読み込んでいる研究者が
特許を読む理由として考えられるのは、
例えば自分の研究予算を確保するために、
特許を参考にして「この研究が金になる」という
アピール材料を探すためでしょう。

 

 

もちろん、企業の研究部門が他社特許を参考にして
研究テーマを探す場合、より直裁的に他社に対して
特許出願数・取得数を争うことが目的だったりしますが、

 

ジャーナルで名前を売ることが目的の研究者が、
他社特許との比較ありきでテーマ選定することはありません。

 

この辺りは、サイエンティスト志向とエンジニア志向の違いが
出る場面とも考えられます。

 

 

 

翻訳者がジャーナルを読むことによる副次的効果

 

まず、特許判例データベースにアクセスしてください。

 

「平成 12年 (行ケ) 409号 特許取消決定取消請求事件」の中に、
次の箇所が見つかると思います。

 

「ウ 特開昭62-90863号公報(乙第4号証)
「一方Li+イオン等の陽イオンを取り込んだ黒鉛層間化合物を
負極として用いることは当然考えられ,事実,例えば
特開昭59-143280号公報に,陽イオンを取り込んだ黒鉛層間化合物を
負極として用いることが記載されている。しかしながら,
かかる陽イオンを取り込んだ黒鉛層間化合物は極めて不安定であり,
特に電解液と極めて高い反応性を有していることは,エイ・エヌ・デイ・・・等の「ジャーナル・オブ・エレクトロケミカル・ソサエティー・・・1970年」
の記載から明らかであり
,」。

 

このように、代表的なジャーナルは、特許判例でも引用されていることから、
その有用性がおわかりいただけると思います。

 

 

 

特許と論文との関連

 

まず、「”journal of electrochemical society” google patent」
で検索してみましょう。

 

20160825-1

 

 

この中で、赤枠で囲った特許を見てみます。

 

Method for maskless chemical and electrochemical machining

公告番号              US4283259 A

公開タイプ           認定

出願番号              US 06/037,074

公開日                  1981年8月11日

出願日                  1979年5月8日

優先日                  1979年5月8日

 

 

この特許の「2. Background Art」に、

 

「The classical methods of machining which rely on
deformation mechanisms are limited in their resolution and
result in deformation of the machined surface.

 

The problems associated with deformation of the machined surface have in part been overcome by electrochemical machining techniques.

W. Kern and J. M. Shaw, in Journal of Electrochemical Society, Electrochemical Technology, Vol. 118, No. 10, pp. 1699-1704
disclose a technique for delineation of high resolution patterns in
tungsten films on semiconductor device wafers.」とあります。

 

 

翻訳者募集のページで、「当該分野における背景知識があること
という記載を見たことがあると思います。

 

背景知識とは、当該分野の特許出願をしている当業者の知識が
地層のように積み重なったものです。

 

当該分野の背景知識に習熟するためには、
目の前にある特許だけを見るのではなく、
当業者がすでに発表しているジャーナルを追跡し、
関連情報を根こそぎ拾う力が必要です。

 

それなくして、当業者レベルの背景知識があるとは
言えないのではないでしょうか。

 

 

ちなみに、読むべきジャーナルは自分が得意としている分野で違います。

 

ジョブとして読んでいる特許の「引用非特許」の箇所に
同じジャーナルが何度も登場するなら、
それを定期購読して読むようにしましょう。

 

わたしが主催している講座の受講生・卒業生も、
学会や学会論文をフォローしている人が増えてきました。

 

 

 

まとめ

 

もしあなたが得意分野の最新情報に精通したいのなら、
ぜひ代表的なジャーナルをフォローしてみて下さい。

 

また、特許はその発表論文との関連で読むようにすると、
より深く理解できますし、発明の内容(技術思想)の立体的把握にも
きっと寄与するはずです。

 

 

 

<追伸>

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