特許明細書を専門知識に依存せず読み取る方法

特許明細書を読み取るためには、理系の専門知識が大量に必要だ。

だから文系の自分は不利だ、無理だ、できない、
と思っている人が多いのには驚かされます。

 

本稿では、足りないのは知識ではなく思考力や論理力であること、
そしてその前提として素直に明細書に立ち向かうマインドに
問題があることを説明していきたいと思います。

 

以下の文章をよく読み、実践していただければ、
巷に広まっている「特許翻訳=理系有利」という「ドグマ」が
瓦解すると思います。

 

足りないのは知識ではありません。
考えるという一手間を惜しむその脆弱マインドこそ問題なのです。

 

ここでは、2016年・セミコンジャパンで登場した
「ステルスダイシング」を素材として取り上げたいと思います。

 参照)https://www.disco.co.jp/jp/news/event/sj2016/index.html

 

 

 

言葉を出発点としたアプローチ

 

「ステルスダイシング=ステルス+ダイシング」です。

 

そして、この言葉がセミコンジャパンで登場しているのですから、
半導体関連の技術についての言葉であるはずです。

 

 

 

ダイシングについて

 

まずは、半導体プロセスの一つである「ダイシング」について
確認するため、「半導体+ダイシング」で検索します。

 

この際、大切なことは細かい知識に惑わされないことです。
「要するに」どういうこと?という質問を自分に投げかけて、
それに答えるようにして調べるようにしてください。

 

 

次に、従来のダイシングが抱える問題点を解決するために
「ステルス」ダイシングなるものが登場したと考えられますから、
まずは現状把握、つまり半導体プロセスにおけるダイシング工程と
そこでの問題点を確認します。

 

まず、グーグルサジェストを活用してみます。

 

半導体工程におけるダイシングには専用装置が存在し、
その工程にはフィルムが使われ、ディスコが代表的な装置メーカーであり、
その工程には「ブレード」「レーザー」が使われていることが推測できます。

 

ここまで確認したら、一度通しでお読みいただいた
半導体関連の書籍(下記で推奨書籍をご紹介しています)の
索引を活用し、関連箇所を読みます。

 

 

20161220-1

 

 

あわせて、グーグル検索結果を「画像」に切り替えます。

 

20161220-2

 

出典)http://www.lintec.co.jp/e-dept/adwill/about/

 

 

ダイシングとは、ウェハー上に作成したチップを分離するために、
レーザーまたはカッター(ブレード)で切断する工程
であることが分かります。

 

この後、YouTube等でダイシングプロセスの動画をチェックします。
従来のダイシングではゴミが発生するために
洗浄工程が必要であることが分かります。

 

 

となると、「ステルス」とは「コンタミ防止」に関連した技術
ではないかと推測できます。

 

ここまでの説明を読んで「難しい」と思った場合、
前提が欠如していることになります。

 

 

英語を勉強するのに「アルファベット」は知る必要があります。
特許明細書を読むために細かい専門知識は不要と言いましたが、
程度問題です。最低限度の言葉は押さえてください。

 

もちろん、ネットで勉強する、知識ゼロからネット検索で
芋ずる式に知識を獲得する方法もありますが、
いかんせん時間がかかります。

 

普通は、まず定評のある書籍を入手し、
半導体プロセス全体を押さえておく必要があります。

 

オススメするのは、前田さんの本です。
この2冊はぜひ購入してください。

 

 

 

 

 

 

 

この本の存在を知らない、あるいはここに書かれている基礎的な知識も
欠如している状態では、半導体案件を受けることはできません。

 

また、そのレベルで半導体が得意分野です、
とか言わないようにしてください。
コーディネータに鼻で笑われてしまいます。

 

さて、事前にこうした本で学習済みであること、あるいは
最初の依頼が半導体がらみだった場合は大急ぎでこうした本で
大枠を把握していただいたことを前提に、話を進めていきましょう。

 

 

 

ステルスの正体

 

すでに、ステルスがコンタミ防止がらみで出てきた技術に
関連するのではないかという推測はしていますから、
次は「ダイシング ステルス コンタミ」で検索します。

 

すると、

https://www.hamamatsu.com/resources/pdf/etd/SD_tech_TLAS9004J.pdf
がヒットし、その中に「図1 ステルスダイシングの基本概念」が出てきます。

 

 

20161220-3

 

 

ウェハーの内部にレーザーの焦点があり、
これがスキャン(走査)されていることが分かります。

 

ウェハーの内部にのみ局所的・選択的な加工を施してありますから、
外部からはレーザーによる加工がなされたかどうかは
分からないことになります。

 

これが「ステルス」という意味ではないかと推測できます。

 

 

上記PDF内にも「ステルスダイシングは対象材質を
その材質“内部”から割断する方式であるため、
対象材質を“外部”から切断する従来のレーザダイシングとは
その原理機構が明らかに異なります。」

 

との記述はこのことを示していると考えられます。

 

また、外部変化が無いということは、
レーザーやダイヤモンドカッターを使った機械的切断と違い、
削りかす(ゴミ)が発生しない「クリーンプロセス」であることが分かります。

 

参考)本プロセスの特徴については、

https://www.disco.co.jp/jp/laser/merits.html
にまとめられているように、コンタミ防止以外にもいろいろあるようです。

 

 

 

違いを端的に表現する力

 

 

20161220-4

 

出典:

https://www.hamamatsu.com/resources/pdf/etd/SD_tech_TLAS9004J.pdf

 

 

図6の説明には、「SD方式の場合、ステルスダイシング後は
個々のチップは依然として一体化したウェハーのままの状態であり、
その後テープエクスパンドにより初めてチップ分離されます。」とあります。

 

外からは見えない「切れ目」を入れておいて、
実際にチップを取り出す前に、ウェハーの裏面に貼ったテープを
引き延ばすことで、チップどうしを物理的に分離していることになります。

 

これは、日常生活で使っている湿布薬(モーラステープ)の使用例に似ています。

 

 

20161220-5

 

出展:http://hisamitsu-katahari.jp/sp/

 

 

つまり、レーザーを内部にフォーカスし、
見えない切れ目を作成しておいてからテープを引き延ばすことにより
分離するという視点は、技術としても操作としても、
何ら新しいものは無いことになります。

 

それをダイシングという工程に組み合わせた視点が新しいと言えます。
が、この理解に特段の専門知識は不要です。
専門知識の有無とは関係なく理解可能なのです。

 

レーザーのフォーカシングをウェーハ内部で行ったこと、
見えない切れ目を予め入れておいてからテープを引き延ばす
機械的操作と同時にチップを分離していること、
ここがポイントです。

 

あえて理系知識を問題にするのなら、
レーザーがどういうものでそのフォーカシングが可能であるという点だけでしょう。

 

 

 

まとめ

 

文系だから、専門知識が無いから、
といったできない理由を探すことはやめましょう。

 

結局、当該特許明細書において、何が新しいのか、どういう発想で、
何に着想を得て出願された特許なのかと考えてみましょう。
このことで、特許の理解が加速します。

 

先入観を捨てて素直に特許明細書と向き合うことが何よりも大切です。

 

 

この他にも「翻訳者になるために」役立つ情報をお送りしています。
よろしければ、メルマガにご登録ください(筆者)

3年で年収1000万円を目指すオンライン特許翻訳講座

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

よく読まれている記事